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2022/10/02

10/2巻頭言「『わからない』と言える―不可解への耐性」その③

【今週のことば】 
(丸善出版に頼まれて「學鐙」2022年秋号に原稿を書いた。)
医師からは「断酒」しかないと告げられた。スタッフたちは「断酒」という「正解」に向かって支援を始めた。「解決型支援」の始まりだ。内野さんは、毎朝、事務所で抗酒剤を呑んだ。当然酒は飲めなくなった。以前のような「問題」は起きない。しかし、少し前まで一杯調子で楽しく、うるさかった内野さんはもういなかった。ひとり食堂で食事を済ませ部屋に戻られる。おかずにこれでもかと醤油をかける姿が痛かった。そんな日が続いた。確かにアルコール依存症の「解決」は「断酒」しかないのかも知れない。だが「問題を解決した」はずの内野さんは、これまでとは別人のように暗く、虚ろになっていった。これでいいのか。
「我々は内野さんの権利を侵害しているのではないか」と私はスタッフに問いかけた。スタッフは首を傾げたが「いや、侵害していると思う。失敗する権利を侵害している」と私は続けた。お酒が問題であることは誰の目にも明らかだった。その問題解決の「正解」が「断酒」であることも。しかし、それで内野さんが幸せなのかが問われていた。あの虚ろな日々は、彼にとって「正解」なのだろうか。
優秀なスタッフになればなるほど先が読めるもので、この道の先に潜む「問題」や「失敗」が分かってしまう。それで先回りして対処する。これを「ガードレール型支援」と言う。その人の道の両側にガードレールを設置し、道から絶対に外れないようにする。確かに事故は防ぐことは出来るが、そんな道は楽しくない。第一その人らしくない。
現在の社会は「セキュリティ」が重んじられる。繰り返される住民反対運動において「地域の安全・防犯―セキュリティ」が声高に求められる。ホームレスや困窮者、障害者などの施設は「危険」と見なされ建築できないこともある。「セキュリティなどどうでも良い」とは言えないが、しかし、それだけで良いのか。安全も「正解」ではなく「やや正解」に過ぎない。
大切なのは「セーフティーネット型支援」である。セーフティーネットとは、元来空中ブランコの下に貼られたネットのこと。「落とさないためのネット」ではなく「落ちても死なないためのネット」だ。「死なない程度に失敗できる」。「正解」ではないかも知れないがそれもありではないか。「セキュリティが唯一の正解」と考える社会は「セーフティー」を危険だと思い込む。そして行動を制限する。最終的には空中ブランコなどという危険なこと自体止めておけとなる。それでは面白くもなんともない。
「死なない程度に失敗できる」。そんなセーフティーネット型の社会でありたいと思う。「失敗する権利」を相互に尊重できる。そんな社会や、そんな支援も良いではないか。

つづく

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