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2021/05/30

5/30巻頭言「あれから三年―松ちゃん、会いたいよ その⑦」

翌朝。もう一人の付き添いであるボランティアの三浦さんは緊張した面持ちで八時過ぎには教会に到着されていた。準備万端松ちゃんの到着を待つ。

来ない。10分経過。来ない。20分経過。やはり来ない。支援住宅に迎えに行こうかと思うが、いやここは我慢、我慢。30分経過。「やっぱりダメか」と思った時、松ちゃんが現れた。昨夜二人で準備したボストンバックを下げている。「おおお、来たな」と言うと「当然や」と言わんばかりに松ちゃんはVサインを返してきた。

しかし、近づいてきた松ちゃんは匂った。確かに臭い。焼酎だ!この臭いは。「松ちゃん飲んだな」と聞くと松ちゃんは再びVサインで返してきた。「あほか。何がVサインや」と「ともかく車に乗って。はい、乗って、乗って」と急かす。松ちゃんを載せた車が動きだした。「奥田さん。飲んでたら病院ダメなんと違うの」と松ちゃんが尋ねるので「そうやで。飲んでたら 『治療の意思なし』と見なされ診てもらえない。松ちゃん本当に治す気あるの」「あるある」「二回言うな。本当にあるの」「ありますです」「『です』はいらない」。「・・・・・」。

松ちゃんを乗せた車は、ある場所を目指していた。実は、こういう事を想定して待ち合わせ時間を朝にしていたのだ。入院のための診察は午後二時からと指定されていたが、僕らは、松ちゃんが飲んでしまうことも想定し、あの時間に待ち合わせをした。車はある目的地に向かってスピードを上げる。異変に気付いた松ちゃんが騒ぎ始める。「奥田さん、こっちは◎◎病院と違うで」。「大丈夫、大丈夫。大船に乗った気持ちでいてくださいね」とVサインで応えてあげた。

向かった先は温泉。午前中から開いている温泉を事前に調べていた。「はい、到着。入院の前にまずお風呂に入りましょう。大船ではなく湯舟ね」と車を降りる。松っちゃんはといえば大笑いしながら「あああ、やられた、やられた」と喜んでいる。「はい、そこの人!よろこばない!」

お湯はたっぷり、お客も少ない。松ちゃん対策にもってこいの温泉だった。松ちゃんは5分もすると「さあ、上がるか」と湯舟を出ようとする。それをもう一度お風呂の中に引っ張り込む。「松ちゃん、あかん、あかん、早い、早い。もっとつかりなさい」。松ちゃんの額から汗が流れ始める。「あの汗は焼酎の味がするんだろうか」と禿げた頭を覗き込む。かれこれ2時間。出たり、入ったり、出たり、入ったりを繰り返した。酒抜きお風呂タイムは続く。松ちゃんは「かんべんしてよ」と笑っていた。それはこっちのセリフやっちゅーの。ついでだから全身隅から隅まで完璧に洗ってあげた。ピッカピカの松ちゃんが出来上った頃、ようやく何とかなりそうと思える「レベル」となる。

風呂から上がり一緒にご飯を食べて午後一時「さあ、いざ出陣。病院をめがけて突撃」と号令をかける。「おおおお!」と松ちゃんが鬨の声を上げた。午後2時前、私たちは、予定通り病院の受付の前にいた。「勝った」と思ったのだが。

つづく

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