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2021/04/18

4/18巻頭言「あれから三年―松ちゃん、会いたいよ その①」

松井建史さんこと松ちゃんが天国に行って三年になる。僕にとって忘れることのできない人。おかしく、やさしく、孤高でいてチャーミングな松ちゃんが逝ってしまった。まだ、78歳。2018年4月12日。突如としてその日は訪れた。松ちゃんは「さよなら」も言わず逝ってしまった。本当に最期まで勝手なオヤジだ。神様は、たまにそういうことをされる。だから時々神様が嫌いになる。
松ちゃんと出会ったのは、2003年頃、炊き出しの時、小倉駅辺りでどこからともなく現れる。気難しい感じがしたが、すぐに打ち解け「松ちゃん」と呼ぶようになった。しかし、なかなか「自立したい」ということにはならなかった。お弁当と渡し、一声かけて別れる。そんな出会いが五年続いた。
「風が吹く」、そんな日がある。実際に風が吹いていたわけではないが「何かが動く」そんな気配を感じる「日」がある。
その日は、いつもより少しだけ言葉重たげにこう言った。「松ちゃん、そろそろ自立支援住宅(私たちが2002年から始めていた自立のための支援付きアパート)に入らない」。すると松ちゃんは、いつものように少し笑ってこう言った。「俺はまだ元気やから、ええわ。どうしもなくなったら助けてもらうわ」。その日の僕は食い下がる。「あかん、あかん。松ちゃん。自分で頑張るっていうのは悪いことではないけど、どうしようもなくなってからではもう遅い。元気な内に入居すべきや。あのな、自立するということは誰かを助ける人になるということやで。松ちゃんは、元気な内に自立して、多くの人のために生きるんよ。それが筋やないの」。その日、松ちゃんは「考えとくわ」とひとこと残して去っていった。
そして、二週間後、松ちゃんは「わしにもできること、あるやろか」と言ってこられた。そして、自立支援住宅第一五期の入居者として一歩を踏み出す決心をした。
良かった、良かったも束の間。当然、一筋縄ではいかない。自立支援住宅に入るなり、事件、事件の連続だった。お酒の問題は深刻で、路上の時はさすがにお金が無いので、そこそこで治まっていたがお金が入ると一気に酒量が増えた。考えてみると一文無しの路上の時でもどこからかお酒を手にいれて飲んでいた松ちゃんだ、自立後は、水を得た魚のごとく自由を謳歌し始めたのだ。楽しいお酒なら止めはしない。しかし、次第にお酒は松ちゃんを吞み込んでいった。日に日に松ちゃんの行動は僕らの理解を超えていく。
気づくと竹下町の交差点に立って道行く車に何やら語りかけている。トラックが通るとひときわオーバーアクションで指差しながら指示を飛ばす。「松ちゃん、何しているの」と尋ねると「行先を教えている」誇らしげに話す。酒臭い。「ああ、あかんわ」ということになり、自立支援住宅担当者会議がしばしば招集されることになる。

つづく

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